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解凍されたアイスマン



1991年にアルプス山中で発見され、これまで冷凍保存されてきたアイスマンのミイラが、初めて完全解凍された。その様子をNHKが放送していたのを興味深く見た。(NHKスペシャル:完全解凍!アイスマン~5000年前の男は語る~)

アイスマンは、9時間にわたって常温解凍され、全身から149点のサンプルが採取された。これらのサンプルと、一緒に見つかった身の回り品を分析したところ、色々なことがわかったという。

まず、この古代人が生きていた時代は、骨の炭素分析から5300年前と分った。この年代は四大文明のひとつメソポタミア文明が始まって間もない頃であり、ほかの三大文明はまだ始まっていない。ところがその時代に、アイスマンはかなり文明的な生活をしていた形跡がある。というのは、毛皮のマントにはオシャレの兆候が認められ、斧の材料たる銅の純度は99.7パーセント、これはかなり高い文明があったことを推測させる。そのほか、胃の中から取り出された食べ物の残骸からは、肉をハーブで調理した形跡やら、小麦でパンを焼いたらしい形跡も見つかった。アイスマンは、かなり人工的な食生活を楽しんでいたらしいのである。

さらに、アイスマンの皮膚にはいくつかの刺青の跡があったが、それらが施された場所はすべて、鍼灸治療のツボにあたっていた。このことから、アイスマンはかなり高度な治療をうけていたことが推測された。

というわけで、人類の文明は5000万年以前に四大文明から始まったとするこれまでの定説が覆されるかもしれないというのだ。もしかしたらヨーロッパのアルプス地方周辺に第五の文明が栄えていたかもしれないというわけだ。

ところで、アイスマンはどのようにして死んだのか。研究チームは、アイスマンが倒れていた姿勢の特徴や、体に残っていた傷、また胃の中に残された食糧の残骸などをもとに、死因を追求した。その結果アイスマンは、何者かの追及を逃れて方々をうろつきまわったあげく、後ろから矢を射られ、倒れたところを石でこめかみをぶん殴られたらしいということがわかった。いわば古代殺人事件である。

そして面白いことに、犯人はアイスマンに突き刺さった矢じりを抜き去っていた。専門家によれば、古代人にとって矢じりは名刺のようなもので、持ち主を特定するマークが必ずついていた。集団で狩をしていた古代人は、誰の矢が獲物を倒したかを明らかにさせるために、矢じりに持ち主のマークをつけていたというのだ。ということは、アイスマンを殺した人物は、証拠を消すために、矢じりを抜いたと考えられる。つまりかなりな知能犯であったわけだ。

こんな調子で、この番組は見ていて楽しかった。

ところで、胃から取り出された食べ物の残骸のうち、半分は再び胃の中に戻されたそうだ。将来再びミイラが解凍される際に、さらに高度な調査技術で解明を深めたいという思惑からだ。






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