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脳卒中:病の起源



NHKスペシャル「病の起源」第二集は脳卒中の特集だ。脳卒中は人類だけに見られる病だという。人類の兄弟分たるチンパンジーには、野生状態では見られない。ということは、これは人類が進化の代償として背負った病気の代表格ともいってよい。

人類は生物の進化のレベルでは非常に短い期間に脳を巨大化させてきた、そのことが脳卒中の根本的な原因となった。脳の巨大化をベースに、そこにいくつかの要因が加わって、人類は脳卒中に悩まされることになった。というのは、基本的な道筋だと番組は言う。

まず脳の巨大化によって、脳内血管、とくに毛細血管が爆発的に増えた。脳の活動を維持するためには酸素や栄養が必要であり、それを脳の隅々まで運ぶために、血管が網の目のように張り巡らされたのである。現在の人類の脳内血管の長さを足し合わせると、なんと600キロ以上に達するというから驚きだ。

ところが、これらの血管は、身体の他の部分の血管に比べると非常にもろくできている。血管の壁が薄いのだ。これは脳の爆発的な巨大化に、血管が追い付かなかったことの結果であるといえる。その結果、脳の血管は破れやすくなった。これが脳卒中の最も根底にある要因である。

これに加えて、脳の血管を破れやすくする他の要因が加わった。その最たるものは、脳の血管を詰まらせる要因である。その最大の要因となるのは高血圧であるという。

人類が高血圧に苦しむようになったのは、6万年前以降であるという。人類は6万年前にアフリカを出て地球上に広がった。その時に人類は重要なものを手に入れた。豊富な塩である。塩は高血圧の最大の原因となる物質だ。

アフリカでは、塩はどこでも取れるというわけではなく、また好きなだけ取れるというわけでもない。だから人類がアフリカに留まっている間は、塩の過剰摂取ということはなかった。現在も比較的野生に近い暮らしをしているピグミー族の人々には、まったく脳卒中が見られないが、それは彼等の血圧が低いからであり、何故低いかと言えば、彼等が塩を過剰に摂取しないからだと推測されている。

塩の過剰摂取に加えて栄養の取りすぎも高血圧の原因となる。人類は脳の巨大化によって運動能力が高まり、狩猟や農耕を通じて豊富な脂肪分を摂取するようになった。そのことが高血圧をもたらし、其れが脳卒中の頻発につながった、というわけである。

産業革命以降、人類は発がん性の物質を作りだし、それによってがんの発生リスクを一層高めたように、高血圧の原因となる物質や環境も作り出してきた。たとえば、たばこ、アルコール、ストレスなどがそれである。

こんなわけで、人類は進化の代償として脳卒中のリスクを背負い込んだことに加え、高血圧になりやすい要因を自分で作ることによって、いっそう脳卒中のリスクを高めてきたというわけである。だが、脳卒中とその原因となる高血圧は、人類の努力次第で回避することも可能だ。それは塩分をひかえ、肥満をさけること、そのために日頃運動することだ、と番組は強調していた。






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