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脳のアンチエイジング


脳は加齢とともに老化する。老化は萎縮という形で目に見えて現れる。MRI画像で老化した脳を見ると、頭蓋骨と脳の間に黒い隙間が映ることがある。これが萎縮した跡だ。同じ年齢の人でも、萎縮の大きな人と、ほとんど萎縮が見られない人と、個人差は大きい。萎縮がひどくなると、アルツハイマー病などの知的障害につながることはいうまでもない。

何が脳を萎縮させるのか、逆に脳を萎縮させないためには何をすればよいのか。この切実な問いかけに対して、NHKの番組「プロフェッショナルー仕事の流儀」が答えていた。題して「脳のアンチエイジング」

脳は無数の神経細胞の集積体だ。神経細胞同士がインターフェイスを通じて結びつくことでネットワークを作り、そこを情報が行きかうことで我々の思考や行動をコントロールしている。老化するとこのネットワークが崩壊し、それが脳全体の萎縮につながるわけだ。

神経細胞のネットワークの崩壊や脳全体の萎縮は脳の活動を活性化させることによってある程度食い止めたり、遅らせたりすることができる。そこのところは筋肉と似たところがある。筋肉を絶えず働かせることで、身体の運動能力を高い状態に保てるのと同様、脳もまた絶えず刺激することで、高度の知的能力を保つことが出来る。

脳を刺激する回路を、番組は三つ上げていた。運動、知性、感性だ。

運動を通じて我々の身体能力が高まるのは良く知られているが、実は脳にとっても運動は刺激になる。身体のさまざまな部位で起こる運動の情報が脳に伝えられ、それをフィードバックすることで、我々は合目的な身体活動をしているわけであるが、この過程で脳は絶えず刺激を受けた状態にある。それによって神経細胞の結びつきが促進され、結果的に脳が若返るのだ。

脳にとって特に重要なのは手と足の運動だそうだ。だから毎日適度な歩行をすることは、脳にとって都合のよい刺激をもたらすことになる。手の運動はさらに複雑な反応を脳に引き起こす。刺激の質もいっそう複雑なものになる。これに精神的な作用が結びつくと、脳は非常に活発な動きをするようになる。こんなことから、日頃から運動に心がけている人は、そうでない人に比較して、脳が若々しい状態を保つのだ。

知的な活動が脳を活発化させることは、いうまでもない。知的な活動には、知覚、記憶、想起などに始まり、観念の連合や高度な論理的思考までさまざまなレベルがあるが、要は絶えずこうした知的活動を行うことが、脳にとって好ましい刺激になるということなのだ。

番組の中でもっとも印象深かったのは、感性の働きが脳に及ぼす影響だった。番組はそれを視覚に訴える形で示していた。

人間の行う動きには、身体的作用であれ、知的作用であれ、常に感情あるいは情動といったものが随伴している。同じ身体運動を行うにも、それを楽しいと感じながら行うのと、苦痛に感じながら行うのとでは、インパクトが違う。それが脳にも重要な影響を及ぼしている。

たとえば妻が夫に話しかけている場合をシミュレーションしてみる。最初は夫がまったく無関心で、妻が一方的に話しかけているような場合だ。こういうときの妻の脳の前頭葉にはほとんど反応が現れない。前頭葉は脳のうちでも最も大事な部分で、われわれ人間の行動をあらゆる面においてコントロールしている部分だ。

次に夫が妻の呼びかけに反応して、妻の言葉を聞いているケースをみると、妻の脳の前頭葉には明らかな情動の反応が現れる。夫が自分の話を聞いているという状況認識が、妻の脳にもそれなりの反応を引き起こしているのだ。

進んで妻と夫が、互いに目を見ながら会話のやり取りをしているケースを見る。このケースでは妻の脳はもっとも大きな反応を示し、前頭葉のほぼ全体が働くようになる。つまり人間にとって、有効なコミュニケーション活動は、脳を最大限に活性化させると考えられるのだ。

番組はこうしたシミュレーションの結果を踏まえて、夫婦が仲良く会話することの効用を説いていた。日頃仲が良く、会話の豊かな夫婦は、お互いに脳の活動を高めあい、その分一緒に元気に長生きできる可能性も高まる、これこそ究極のアンチエイジングだというのだ。






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作者:壺齋散人(引地博信) All Rights Reserved (C) 2013
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