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グレートジャーニー:ヒューマン なぜ人間になれたのか



NHKスペシャル「ヒューマン なぜ人間になれたのか」の第二集は、「グレートジャーニーの果てに」と題して、人類がアフリカを出て、南極を除く地球上のすべての大地に広がっていった過程を追跡していた。

人類の祖先がアフリカを出たのはいまから6万年前のこと。それを促したのは、人口の増加だったらしい。といっても6万年前には、人類の祖先はまだ数千人しかいなかったはずだ。それでも、アフリカだけでは狭すぎたのだろうか。

ともあれ人類の祖先はいまから6万年前にアフリカを出た。アフリカを出るにはスエズ地峡を経て中近東に至り、そこから北はヨーロッパ、東はアジアへと向かったに違いない。そして5万年をかけて地球上を埋め尽くした。たった5万年と云ういい方もある。

しかし人類の祖先には様々なライバルがいた。その最強の者はネアンデルタール人だった。ネアンデルタール人は、知能の上では我々人類とほぼ匹敵し、体力の上でははるかに強力だった。だからまともに対決したら、我々の祖先に勝ち目はなかったはずだ。

だが何かの事情が働いて、我々の祖先にネアンデルタール人を圧倒させた。それは道具を操る能力だ。道具の中で最も重要だったのは武器だ。我々の祖先は槍を遠くに飛ばす飛び道具、投擲具を発明した。これを使えば離れた相手を正確に倒すことができる。この武器を用いて獲物を狩り、ネアンデルタール人を倒した。この武器のおかげで、人類は地球上で最強の生き物になれたのだ。

投擲具は単に敵や獲物を倒す目的に使われただけではなかった。集団の治安を維持するための威嚇の道具としても使われた。こうして強力な武器を行使する治安部隊の庇護のもとで、大勢の人間が集会を催すことが可能になっていった。都市形成のきっかけを投擲具が作ったかたちだ。

投擲具は集団同士の戦争に際しても使われただろう。戦争ということになれば、弓や石弓など、飛び道具の性能はさらに飛躍しただろう。それを可能にしたのは、大勢の人間が集団を作ることによる、イノベーションの推進だったと思われる。集団の規模が大きくなればなるほど、試行錯誤や模倣を通じて、イノベーションは広くかつ深く進行していったはずだから。

投擲具はつい最近まで、一部の人類によって用いられていた。ニューギニアのアボリジニの用いていた投擲具は、おそらく5万年前の投擲具と殆ど異ならないはずだ。それを用いれば、150メートル先の目標に槍を正確に当てることができるという。

とにかく武器をより遠くまで、より正確に投げるというのが、人類が最初に勝ち取った生きるための知恵だったことは間違いない。ギリシャのオリンピックの競技種目には、格闘技と並んで、槍、円盤、砲丸などを飛ばす競技が行われていたが、それは飛び道具によって地球上に覇権を確立した人類の祖先に関しての、遠い記憶が働いた結果だったのだろう。(写真はスペインの洞窟画、人間同士が弓を用いて戦っているシーンを描いたものだ:NHKから)






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作者:壺齋散人(引地博信) All Rights Reserved (C) 2013
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