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癌の話題でもちきりのアメリカ


アメリカでは今、癌の話題でもちきりのようだ。有力メディアはどこも、癌の特集記事をトップ扱いで掲載している。というのも、民主党元上院議員で大統領選の有力候補者エドワーズ氏が、妻の乳癌が再発したことを公表し、それに国民全体が深い関心を示したからだ。

期を同じくして、ブッシュ政権の報道官トニー・スノウも、結腸癌が再発したことを告白した。これに対して、ブッシュ大統領は、「あいつは癌なんかにへこたれないよ」と激励の言葉を贈った。

医学の発達した現在でも、癌は致死率の高い病気だ。まして再発の場合には、死ぬ可能性は一層高くなる。癌に直面した患者は無論、医師も厳しい選択を迫られる。

その様子は戦場にたとえられる。局所的に発生した癌は、他の場所にたやすく移動する。場合によっては驚くほど速い速度で、がん細胞が身体地図の各所を占領する。これを迎え撃つ医師と患者は、占領された場所を回復し、癌そのものを粉砕しなければならない。文字通り癌と戦う戦士そのものだ。

アメリカの医師は、癌の告知をためらう傾向が強いそうだ。患者が絶望して、病気と戦う意欲を失うことを恐れているからだ。だが、当の患者は、医師が思っているほど悲観的ではないらしい。

癌による死亡率が高いといっても、それは統計上のことであって、自分がどうなるかは別の問題だ。1998年の調査によれば、がん患者の82パーセントが、自分の生存の可能性について楽観的な考えを持っていたという。癌にかかったからといって、くよくよすることはない、自分だけはきっと癌を克服できるというオプティミズムが今日のアメリカ人を元気づけている。

この姿勢は、癌の摘出手術を積極的に選択する患者の態度に反映している。放っておけば確実に死ぬのであるから、患者たちは生存の可能性をかけて手術を選択するのである。

末期癌の場合には、手術そのものによって死亡する可能性も高い。それでも多くの患者は手術を希望する。2001年の調査によれば、80パーセントの患者が手術の成功を確信していた。実際には、42パーセントの患者が手術後すぐに死亡したのである。

エドワーズ元上院議員がアメリカ中の注目を集めたのは、自分の妻には助かる見込みはないと言い切ったからだ。癌に対して楽観的だったアメリカ人は、この発言にショックを受けたのだ。

ともあれ、アメリカの癌患者たちは、俄かに盛んになった癌報道を通じて、自分たちの運命の過酷さを改めて思い知らされたようだ。

(参考)For Cancer Patients; A Struggle to Prolong Hope as well as Life : By David Brown Washington Post






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