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いびきは、かく本人は殆ど自覚することがないが、周囲のもの特に配偶者にとっては悩みの種だ。亭主のいびきに悩まされて、睡眠不足に陥る妻はばかにならない数にのぼるだろう。二人一緒にかけば互いに気にならないだろうと思っても無益である。運悪く目覚めてしまったほうが貧乏くじを引くだけだ。 いびきをとめようとして、洗濯ばさみで亭主の鼻をつまんだりする人もいるようだが、危険だからやめたほうがいいそうだ。むしろ、寝ているものの体位を、横向けにしてやったほうが効果があるらしい。 人は何故いびきをかくのか。 いびきのメカニズムは、人間の呼吸のメカニズムと深く関係している。人間の咽喉の奥には空気を通すための気道が開いていて、我々はそれを通して空気を肺に送っている。ところが睡眠時には、咽喉の上部の筋肉が弛緩して垂れ下がり、この気道を塞ぐことがある。そのため、呼吸困難に陥り、なかには数秒あるいは10秒以上にわたり呼吸が停止する。これを睡眠時無呼吸 Sleep Apnea という。いびきはこの無呼吸の反動として起こる現象なのである。 いびきをかく人でも、一晩中かいているという人は少ない。通常は、いびきをかく時間帯とそうでない時間帯が交互に生起する。これは気道が塞がったり開いたりを繰り返していることの反映である。 いびきをかいている時間帯には、呼吸量も少ないのであるから、その時間が長いほど、脳への酸素補給が損なわれ、その結果脳に悪い影響が及ぶ可能性がある。とりあえず現れる症状としては、睡眠不足と倦怠、起床時の頭痛、記憶障害、判断力の低下などである。 呼吸を助ける装置としては、特殊なマスク CPAP が開発されている。これは空気の流れに圧力を加え、強制的に気道を通過させるものである。これでも効果が見られないと、扁桃腺やアデノイドの手術など、外科的処置を施す必要もある。 気道の状態は寝ているときの体位によっても影響される。仰向けにねると、咽喉の上部の筋肉がそのまま下にむかい、気道を塞ぎやすい。だからいびきをかきやすい人は横になって寝るといい。また、寝る前にアルコールを飲んだり、鎮静剤を服用すると、咽喉の筋肉の弛緩を招きやすいそうだ。 ところで筆者もいびきをかく人間であるらしい。「らしい」というのは、自分で自覚することがないからだが、家内にいわせると相当ひどいらしい。加えて筆者の場合には異常というに近いほど寝相が悪い。寝たときと同じ姿勢で目覚めるということがないのだ。単に寝返りがひどいというにとどまらず、布団の中で転々反側し、布団の上を一巡、場合によっては一巡半して、起きたときにはあべこべの向きになっていたということも多い。 これも無呼吸の状態を脱して、空気を求めようとするあがきがもたらすのだろう。寝ることにも、エネルギーがいるのである。 |
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