人 間 の 科 学
HOMEブログ本館地球と宇宙東京を描く美術批評動物写真集日本文化プロフィールBBS



テロメア Teromere:細胞の老化についての研究でノーベル賞



今年2009年のノーベル医学生理学賞は遺伝子の束である染色体の端末部テロメアの研究で大きな業績をあげた3人、エリザベス・ブラックバーン Elizabeth H. Blackburn 女史、キャロル・グライダーCarol W. Greider 女史、ジャック・ショスタク Jack W. Szostak 氏に贈られた。(上の写真 左からショスタク、グライダー、ブラックバーン:NYTより)

テロメアというのは、染色体の螺旋構造体の端末部分を構成しているものである。これがあるおかげで染色体は安定していられる。ところが細胞が分裂を繰り返し、そのたびに染色体がコピーされ続けている間に、テロメアはだんだんと短くなる。すると染色体の構造はもろくなり、他の染色体と癒着したり、崩壊したりする。染色体にとっては外皮あるいは蓋のような役割をする大事なパーツだ。

このテロメアは、人間の老化とがんの発生に深くかかわっていることがだんだんとわかってきた。人間の細胞はたえず分裂を繰り返しているが、そのたびにテロメアが短くなり、染色体は不安定になっていく。これが老化につながっていくのではないか。また分裂の回数が50回ほどになると、テロメアは極度に短くなり、その結果染色体は死滅すると考えられる。それが細胞の死滅につながり、さらに細胞の死滅が一定レベルに達すると人は死亡するのではないか、そう考えられるのだ。

一方、がん細胞においては、テロメアはどんなに分裂を重ねても短くならない。そのためがん細胞は常に若々しく強い生命力をもっている。ほかの細胞を押しのけて最後まで生き残る。この結果個体としての人の死をもたらす、そういうことのようだ。

テロメアの生成にはテロメラーゼという酵素が深く関わっている。通常、人においては、いったん生成したテロメアにこの酵素が働くことはないようだが、がん細胞においては生成後も働き続ける。そのためがん細胞のテロメアはいつまでも短くならず、したがって生命力の強い細胞を増殖し続ける、これががん細胞の恐ろしいところというのだ。

ブラックバーン女史は、1978年に、テトラヒメナという単細胞生物を使っての研究で、従来理論的に仮定されていたテロメアの実在を論証した。またグライダー女史はブラックバーン女史との共同研究のなかから、1984年に、テロメラーゼの働きについて明らかにした。

ショスタク氏もブラックバーン女史と協働しながら、テロメアやテロメラーゼに関する研究を深めたが、その後もっと基礎的な分野にターゲットを移し、単純な化学物質からいかにして生命が生まれたかについての研究を進めている。もしそれが解明されれば、二つ目のノーベル賞に値する画期的な業績になるだろうといわれている。

ともあれ人間にとって、人はなぜ老化し、やがては死なねばならないのか、これは永遠のアポリアだった。ブラックバーン女史らの研究が起動力になって、老化のメカニズムが詳細に明らかになれば、それをもとにして老化のプロセスをブロックしたり、あるいはせめて遅らせることぐらいはできるかもしれぬ。

そうなれば、不死とはいかぬまでも、不老の恩恵の一端くらいには、あずかれるようになるかもしれない。






HOME病気と医療






作者:壺齋散人(引地博信) All Rights Reserved (C) 2013
このサイトは、作者のブログ「壺齋閑話」の一部を編集したものである