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妊婦の服薬:メトクロプラミド Metoclopramide の安全性



大きな腹に色とりどりの模様を施して並んでいるこの妊婦たちの写真は、先日南米ペルーのリマで開かれた母性保護集会での一こまを写したものだ。ロイターが配信したものを借用した。

筆者がこんな写真にこだわったのは、ほかでもない。お腹に子を宿すというのは、女性にとっては大変なことで、つわりによる苦しみや、社会生活上の不便を蒙こうむらねばならぬほか、妊娠そのものが母体に及ぼす負担もばかにならない。そうしたハンデをのりこえて、大きなお腹で臨月を迎えた妊婦を見ると、思わず拍手したくなるのだ。

ところで、妊婦にとって、つわりは非常につらいものだが、これまで世界中の産科医は、つわりに対して、薬を用いることに消極的だった。妊婦自身が医師以上に神経質になっていることもある。1960年代に起きたサリドマイド事件の後遺症が、今でも医師や妊婦たちを金縛りにしているためである。

だが国によっては、妊婦の投薬にあまり神経質でないところもある。イスラエルでは、つわりの治療薬として、メトクロプラミド Metoclopramide が医師によって処方されており、妊娠初期の妊婦の苦痛を大いに和らげている。

そこでこの薬が、妊婦にとって完全に害がないといえるのか、胎児にいかなる影響も及ぼさないといえるのか、このたび、イスラエルの研究グループが行った組織的な調査の結果が発表された。

彼らは1998年から2007年にかけて、イスラエル内で生まれた約82000人の新生児を対象に、母親が妊娠の一時期にメトクロプラミドを服薬したグループと、つわりに対して薬を用いなかったグループに分けて、この薬が胎児に及ぼす影響を分析した。その結果、前者のグループ3458人と後者のグループ78245人との間で、優位的な差異は何も見られなかった。

このことから、研究者たちは、メトクロプラミドが胎児に及ぼす影響は無視できると判断した。

だがアメリカの産科医には、この薬に対してまだ慎重な傾向が強い。この薬は胃の中にたまっているものを早く排出させ、胸焼けを抑える効果がある。そのためひどい吐き気を伴うつわりに対して威力を発揮するが、副作用がまったくないわけではない。その主なものは、脱力感、不眠、不安感といった、うつ状態に類似した症状である。

(参考)Study Suggests Drug is Safe for Morning Sickness By Linda A. Johnson : AP






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