人 間 の 科 学
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遺伝子が語る人類の進化


人類学者たちは、骨の化石を頼りに人類の進化を推測してきた。その結果わかったことを、聖書の表現を用いてあらわすと、チンパンジーと人類の共通の親から、まずアウストラロピテクスが生まれ、アウストラロピテクスはホモ・ハビリスを生み、ホモ・ハビリスはホモ・エレクトゥスを生み、ホモ・エレクトゥスから我々の直接の祖先たるホモ・サピエンスが生まれた。

人類の進化を考える際、人類学者が最も注目したのは、脳の入れ物である頭蓋骨の形状と、骨格が歩行に適したものであるかということだった。化石は大まかなことは教えてくれたが、それらに毛が生えていたかということや、厳密な年代については、詳しいことまでは推測できなかった。

ところが、遺伝子の研究が進むにつれ、今までわからなかったことまでわかるようになった。例えば、人間に寄生する虱のDNAを研究することによって、人類の体表面から毛がなくなったのは、ほぼ114,000年前であることが最近わかってきた。

こうした人類学への遺伝子研究の応用の成果について、最近のニューズウィーク誌が伝えている。The New Science of Human Evolution ; By Sharon Begley

虱には毛に寄生するアタマジラミと衣服に寄生するコロモジラミがある。アタマジラミは人間の毛に寄生するもので、人類が毛に覆われていた時代に栄えたと思われるが、現在ではごくまれに、人間の頭髪や陰毛に寄生するのが見られる程度である。コロモジラミはアタマジラミから分かれた種であり、人間の衣服に寄生するものだ。人間から毛がなくなって寄生する場所を失い、そのかわりに人間の衣服を新たな寄生場所に選んだのだろうと思われる。

こうしたことから、コロモジラミの発生年代を推測できれば、人間から体毛がなくなった時期も推測できる。DNAがそうしたデータを教えてくれたのである。

DNAの分子には、一定の間隔をおいて規則正しく変化する習性がある。これを利用すると分子の時間的な背景が推測できる。専門用語で、分子時計 “Molecular Clock” というのだそうだ。

人間とチンパンジーのDNAはきわめて似通っており、共通しない部分は1.2パーセント以下である。この共通しない部分の分子時計をもとに推論すると、人間とチンパンジーが枝分かれしたのは、ほぼ600万年前のことらしい。650万年前には地球に大きな気候変動がおき、厳しい寒冷期に入っていたので、同じ猿でありながら、森に残ったものと平原に進出したものとの間に、生き方の差が生じたのであろう。

最初の人類というべきアウストラロピテクスは、まだ猿に似た顔つきではあったが、直立歩行ができた。身長は3-5フィート、体重は60-100ポンド程度。歯形から推測すると主に植物を食べていたらしい。肉食獣からは狩られる立場であった。彼らの頭蓋骨の化石には、肉食獣の歯形や爪の跡らしいものが見られる。このことが、彼らを互いに結束させて、恐ろしい敵から共同で身を守るよう駆り立てたものと思われる。

ホモ・ハビリスがアフリカにはじめて現れたのは250万年前。彼らはチンパンジーよりも大きな脳を持ち、石器などの道具を用い始めた。

180万年前には、ホモ・エレクトゥスの最初の世代が登場した。

ホルモンの一種にオクシトクシンというものがある。これは労働や雌の授乳に関係するホルモンで、原始的な形ではチンパンジーにもみられる。だが、今日の人類におけるものは170万年前に成立した。その頃、人類の祖先は社会的な共同生活、とりわけ男と女の共同生活をするようになったものと思われる。

ホモ・エレクトゥスはアフリカにとどまらず、ユーラシア一帯に進出した。北京やジャヴァ島でも彼らの化石が発見されている。66,000年前には、彼らの一部がオーストラリアにたどり着いている。しかし、彼らは今日の人類の中に子孫を残すことなく、ことごとく滅びた。

今日の我々の直接の祖先たるホモ・サピエンスが登場するのは、89,000年前ごろのことである。彼らは生物学的には、我々とほとんど異なることがなく、仮に結婚しても子を作ることができる。

ここに面白い研究成果がある。スタンフォード大学のピーター・アンダーヒルという学者は、遺伝子の染色体のうちYの部分が、父親から息子へと受け継がれることに着目し、世界中の男たちの染色体のルーツをたどっていったところ、今日の地球上に生きているすべての男たちの先祖は、89,000年前に生きていた2,000人の男たちから派生したということを突き止めた。女の数も同数であったと考えられるから、今日の地球人たちの祖先は、89,000年前にアフリカの草原にいた4,000人から出発したのだといえるのである。

66,000年前には、人類の一部はアフリカを脱出してユーラシア大陸に進出した。アフリカ人からまず白人が枝分かれし、更に白人からアジア人が枝分かれしたものと思われる。それは、耳垢に深い関連をもつとされる、ある遺伝子をもとに推論されていることだ。







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作者:壺齋散人(引地博信) All Rights Reserved (C) 2013
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