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人間の中の魚:加速する進化が人間を多様化する


地球上に棲息するすべての脊椎動物が魚類から進化したことは、ダーウィン以来の進化論が推測していたことであるが、その直接的な物証はなかなか見つからなかった。ところが4年前に、カナダの北極圏で発見された3億7500万年前の魚の化石には、首と手足がついていた。発見者のシュービン Neil Shubin 博士は、この魚が、水中から陸上へと進出した最初の魚だったのではないかと考え、今日の地上の脊椎動物、ひいては人類にとっても直接の祖先だろうと推測した。

進化とはある意味で偶然の産物である。進化を促す突然変異という言葉がそのことをよく物語っている。海中を泳ぎまわっていた魚が淡水に進出したのも突然変異による適応可能性の拡大によるものだし、淡水から陸上に進出できたのもやはり突然変異の賜物だったといってよい。

ところが他方、我々地上の脊椎動物が魚から進化したということは、我々に運命のようなものを課してもいる。人間は地上の動物のうちで唯一二足直立歩行するものであるが、機能上は二足直立に適さない部分を多く抱えているのだ。

肝心の膝や腰は体重の重みを十分支えられるように頑丈に出来ていない。また血管組織は網の目のように入り組んでいる割に機能的でない。心臓も人間の通常の動きを支えるには、必要以上に活発な運動をしている。これは海中を絶えず動き回っていた頃の、魚の心臓の機能的特徴が、今日の我々人類にも残存しているからなのだ。だから運動不足が心臓の機能低下に直結する。これに対してマグロの類は、海中を絶えず動き回っているから、脊椎動物の心臓の機能にもっともよく調和した動きをしているといえる。泳ぎ回るマグロには心臓病などありえないのだ。

脳の働きについても、原始的な部分が多く残されている。人間が何故不自然な情動を抑えられないか、それはヒトの脳に残っている魚の脳の部分と、理性的な部分とのすれ違いから起こるのだといえる。

このように人間は、魚であった時代の痕跡を引きずっている。魚と人間とでは、生きる環境も生息のメカニズムも極端に違うのに、生命としてのあり方においては、その基本を同じくしている。これが人間に対して、思い通りに行かない重荷を課しているのだ。

ひゃっくりから心臓発作に至るまで、われわれが陥るさまざまな体調不良は、進化上の不具合に由来しているものが実に多いのである。

進化はいうまでもなく、遺伝子中の突然変異によって引き起こされる。そしてそれは環境との相互作用によって加速されたり抑制されたりする。また動物の種の中で、個体の数が多く、適応する環境が多様化すればするほど、進化も多彩になると推測できる。

この理屈を以てすれば、人間についても、進化は進行中で、しかもその程度は段々加速化しているのではないかとも推測できる。なぜなら今ほど人口が多かったことはなく、多様な環境に生きていた時代はなかったからだ。

現在地球上に生きている人類は、アフリカの草原が発祥の地である。それがヨーロッパ大陸に進出する過程で白人が別れ、またアジア大陸に進出する過程でアジア人が生まれた。これらはみな環境への適応の結果生じた枝分かれだったと思われる。

ヨーロッパ大陸での生活は、寒さへの高い適応能力を必要とする。反面強い太陽光線を浴びることがないことから、皮膚の色素が減少してもさしつかえない。こうした事情が今日のようなヨーロッパ人とアフリカ人の違いとなって現れたのだろう。

アメリカの人類学者ヘンリー・ハーペンディング Henry Harpending は、こうした人種間の相違が、今後一層拡大していくのではないかと予測している。人類は歴史上未曾有の個体数増加を続けているし、居住環境も地球上のあらゆる部分にわたるばかりか、宇宙空間への進出さえ射程圏内に入ってきている。進化にとっては都合のいい条件があるといえるのだ。

ハーペンディング氏は、人間の多様性の拡大が人種間の差別にすりかわってはいけないと警告している。一方で、人間の進化が理性的部分の拡大につながることを期待してもいる。

(参考)The Fish within Us By Jeneen Interlandi : Newsweek






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